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科学技術を用いた支援やリハビリ(ケセラセラ2025年7月号 vol.137)

医療法人和楽会 横浜クリニック
院長 境洋二郎

2025年6月19日〜21日に神戸市にて、第121回日本精神神経学会学術総会が開催されました。特別講演として、「科学技術と共に実現するインクルーシブな未来社会に向けて」という題で、浅川智恵子さんのとても印象的なお話を聞くことができました。浅川さんは、IBMフェローであるとともに日本科学未来館の館長も務められています。その登場場面から印象的で、座長の後方からスーツケースを押しながら、いやスーツケースに先導されるように歩いて登場されたのです。浅川さんは、プールでの怪我をきっかけに中学生時に失明されたという視覚障害者です。その喪失の多い状態・状況の中でも、IBM入社後、点字のデジタル化システムを開発し、現在のインターネット点字図書館の前身を築かれ、世界初の実用的な視覚障害者向け音声ブラウザ「ホームページ・リーダー」を開発し、世界の視覚障害者の情報アクセス手段を格段に向上させるきっかけを作られました。大学、企業で研究され、米国に赴任もされ、AIの技術を応用することで視覚障害者の自由な移動を可能にする「実世界アクセシビリティ技術」の研究開発に取り組まれ、これまで数々の表彰・受賞を受けられています。

ご講演の中で紹介されましたが、トーマス・J・キャロルが、その著書の中で、人が中途失明によって、「20の喪失」に直面することを示しています。これは、視覚を失うことが単なる「見えない」状態以上の、生活全般や心理・社会的側面に及ぶ多面的な喪失体験であることを明らかにしたものです。
キャロルの「20の喪失」は、主に以下の5つの領域に分類されます。

◆ 心理的安定にかかわる喪失
1. 身体的完全さの喪失
2. 残存感覚に対する自信の喪失
3. 外界との現実的な接触の喪失
4. 視覚的背景の喪失
5. 光のもたらす安らぎの喪失
◆ 基本的スキルの喪失
6.  移動能力の喪失
7.  日常生活技術の喪失
◆ コミュニケーションにおける喪失
8. 書記コミュニケーションの容易さの喪失
9. 動作・表情を含む会話の容易さの喪失
10. 情報獲得の喪失
◆ 鑑賞・感性の喪失
11. 面白さを見てとることの喪失
12. 美しさを見てとることの喪失
◆ 職業・経済・社会的基盤の喪失
13. レクリエーションの喪失
14. 職歴・職業上の目標、就職の機会の喪失
15. 経済的安定の喪失
◆ 結果としての人格全体にかかわる喪失
16. 自立性の喪失
17. 人並みの社会的存在であることの喪失
18. 目立たなさの喪失(人前で目立たずにいる自由の喪失)
19. 自尊心の喪失
20. 人格構造全体の喪失

これらの喪失は、完全な克服が困難ですが、適切な支援とリハビリが、失明した人々が自立した生活を送ることに役立つと言われます。
その支援に現代の科学技術がAIツールを発展させ、障害者の生活の質の向上に大きな役割を果たしています。今はまだ視覚障害者の移動能力の喪失を、白杖や盲導犬を用いて目立ってしまう状態でサポートを行っています。しかし、パーソナルAIエージェントである「AIスーツケース」によって、白杖や盲導犬より目立たない自然な形で視覚障害者が楽しみながら街歩きできるなど、社会参加を支援する開発や実装実験がされているそうです。登場の際に引っ張られていたスーツケースは、その「AIスーツケース」そのものだったのです。

現在開催されている大阪・関西万博で、ロボット&モビリティステーションにて、その「AIスーツケース」が展示されており、予約制でそれを使って移動する体験もできるそうです。学会終了後に訪ねてみると、カメラやセンサーが複数取り付けられ周囲の状況を認識しながら、繋がれたスマートフォンを通し目的地設定や音声対話を行い、屋外で衛星測位を行い、地図データや周りの状況をもとにルートの計算をコンピュータで行い、モーターで車輪を動かし、周囲の人々や障害物をよけたり止まったりしながら、安全にかしこくナビゲーションすることが紹介されていました。スーツケースは階段や荒れた地面では利用困難ですが、目的地を指示したら行けるという意味では、白状や盲導犬では困難なことを、自動車の自動運転のように歩行者を道案内してくれます。実際に万博会場で、AIスーツケースに引っ張られ歩いている体験者を見かけることができました。
現在の科学技術を用いた支援やリハビリが生活の質の向上につながることは、他の身体障害でも、精神障害でも重要であると感じるものでした。

 

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