子どもの不安症を見逃さない⑪ 思春期の非自殺性自傷行為(NSSI)(ケセラセラ2026年6月号 vol.148)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
思春期のお子さんにみられる“非自殺性自傷行為(NSSI)”とは、「命を絶つつもりではなくても、自分の体をわざと傷つけてしまう行為」を指します。ご家族にとっては大変心配で、戸惑いも大きいことと思いますが、これは決して珍しいことではなく、心の辛さを何とかしようとする一つのサインでもあります。
具体的には、腕や太ももなどに傷をつける(カッティング)、軽く焼く、引っかく、物にぶつける、できた傷をわざと治りにくくする、といった行動がみられることがあります。人に見られない場所で行うことが多く、同じような傷が繰り返し残ることもあります。NSSIのほとんどは、不安抑うつ発作の最中に行われていることに筆者(貝谷)は気づきました。その不安発作の中では、後先のことを考えていない、痛みをあまり感じない、あるいは感じにくいという状況が考えられます。
不安抑うつ発作(https://fuanclinic.com/files/news/warakukai_news_233.pdf)では、多くの場合、不意に突然激しい不安感や寂しさが襲ってきます。そして間髪入れることなく辛い思い出が次々に浮かんできます。時には、この内容がフラッシュバックとして現れることもあります。その時の精神状態は、強い不安や落ち込み、寂寞感、無念な気持ち、後悔、怒り、緊張、空虚感といった様々な辛い気持ちでいっぱいになります。ご本人はそれをうまく言葉にできず、「どうしようもない苦しさ」を和らげるために、自分を傷つけることで一時的に楽になる、落ち着く、と感じています。この不安抑うつ発作に対して、「つらい気持ちから少し離れたい」「自分を責めたい」「何かを感じたい」といった気持ちを持つことがよくあります。
心の中では、「自分には価値がないのではないか」「自分は悪い存在なのではないか」といった考えが強くなっている場合もあります。さらに、感情のコントロールが難しく、衝動的になり、家族に当たったりしてしまうことや、同じ行為を繰り返すうちにやめにくくなることもあります。対処行動の中には市販薬乱用も時々あります。
心の深いところでは、助けてほしい気持ちや、誰かに気づいてほしいという思いがあることもありますが、多くの場合は人に知られないように隠して行われます。そのため、ご家族が気づいたときには驚かれるかもしれませんが、それは「注目を集めたいだけ」と単純に言えるものでは決してありません。
また、このような行為は、うつ状態や不安、トラウマ体験、摂食の問題などと一緒にみられることも少なくありません。学校でのいじめや、家庭内でのストレスなどが影響している場合もあります。
多くは思春期の早い時期(10〜14歳頃)に始まり、長く続く場合もあります。そして大切な点として、このような行為を経験したお子さんは、将来、自殺について考えたり行動に移したりするリスクが高くなることが知られています。そのため、早めに気づき、適切な治療に導いていくことがとても重要です。
ご家族としては、「なぜそんなことをするのか」と責めるのは、最も避けなければならないことです。「とてもつらかったのだろう」とその子の気持ちに寄り添う姿勢が一番大切です。自傷行為そのものだけでなく、その背景にある苦しさや思いを理解しようとすることが、お子さんの回復への大きな助けになります。焦らず、安心して話せる関係を保つことが大切です。
著者(貝谷)は長年のパニック症をはじめとする不安症の診療の中で、NSSIの発症土壌となっている不安抑うつ発作(https://fuanclinic.com/files/news/warakukai_news_233.pdf)の存在に気づき、その治療法も見つけ出しました。その結果、薬物療法と公認心理師・臨床心理士によるカウンセリングでこのような自傷行為のあったお子さんがまた元気に登校する姿を見ています。
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