マインドフルネスの臨床効果と脳科学④ マインドフルネスを続けると長生きしますかーその2(ケセラセラvol.95)
医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣
前回に引き続き瞑想により寿命が延びるかどうか検討しましょう。
スペインには曹洞宗寺院がバレンシアとセビリアにあり、本格的に坐禅をする人がかなり多数いると思われます。研究対象となった人達は、1日平均90分前後、10年以上坐禅をしている20人、両群とも男性14名で平均年齢48歳でした。テロメア長は白血球から分離したDNAで検査されました。坐禅群でのテロメア長は10.82±0.23kb、対照群では9.94±0.19kbで坐禅群のほうが統計学的有意にテロメアは長いことが明らかにされました(p<0.001)。また、テロメアが短い白血球の数は有意に少ないことが明らかになりました(p<0.005)。このように坐禅を続けた人はテロメアが長いだけでなく、セルフ・コンパッション尺度が高得点であり、さらに、体験回避の程度が低いことが明らかになりました。
セルフ・コンパッションとは自己への慈しみのことです。例えばその質問項目の一つを示しますと、“苦労を経験しているとき、必要とする程度に自分自身をいたわり、やさしくする”といったものです。また、体験回避とは、苦痛や悩みが生じないように、ネガティブな感情や思考、感覚を悪いものであると捉え、それを感じないようにしたり、排除したり、逃れようとする対処スタイルや態度のことです。端的に言えば、体験回避は困難な精神的問題を正面から対処せず後回しにすることで、その場を取り繕う態度です。ですから、体験回避が強い人はいつまでも精神的問題を抱え込むことになります。以上のことをまとめますと、坐禅瞑想を続けている人は、テロメアが長く、自分が嫌いではなく、自分に優しくでき、精神的問題を抱えず屈託のない人が多いと言えます。
マインドフルネス訓練をした人たちを追跡して、死亡年齢を調べた研究はまだありませんから、マインドフルネスをしている人は長生きすると言うことはまだ断定できません。これまでの平均寿命の統計結果をみると、職業別で長寿の代表は「僧侶」と「キリスト教聖職者」などの宗教家が他の職業を離して断然トップの座を占めています。そこで歴史に名を残している禅の高僧、祖師方に絞ってその寿命を調べてみました(表)。
表に挙げた禅僧は「禅僧伝」「禅の名僧列伝」「禅僧の生涯」などの資料を参考にしたものです。男子の平均寿命は、昭和22年50.6歳、平成元年75.92歳、そして平成29年80.09歳です。表に掲げた昭和時代の禅僧の平均寿命は86.6歳ですから、過去最高を更新した昨年のそれよりまだ6歳余も長生きです。
このデータだけから禅僧は坐禅をするから長生きだったと結論することはもちろんできません。瞑想をすることが長生きに大きくつながったことは間違いありませんが、そのほかの要因もいくつか考えられます。禅寺の精進料理は栄養バランスがよく取れた健康食です。また、早寝早起きと作務は健康に悪いわけがありません。さらに、読経は心身をともに鍛えます。声を出すことは意外に体力を使うのです。また、経を読んでいるときは瞑想と同じで頭の中に雑念が浮かぶ隙が無いのです。さらに、お坊さんは、自由職ですから人間関係に気を遣うことが少なく、人から尊敬されて自主独立したストレスが少ない生活を送ることができます。しかし、このような生活環境を得ることができるのもその根底にある坐禅瞑想による人間的円熟によるものでしょう。
以上、マインドフルネスの良い点をあげてきましたが、瞑想はその気になれば、いつどこでもできますから、一人でも多くの人が“その気”なられることを切に願います。
参考文献
貝谷久宣 仏道修行は長生きと幸せの秘訣 アンチ・エイジング医学 vol.11 No.1 64-72、2015