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新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ(その1)(ケセラセラvol.101)

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 坂元薫

世界中に暗雲が立ち込めている。本文は、東京、埼玉、千葉、神奈川など7都道府県に対して政府より我が国初の緊急事態宣言が発出された2020年4月8日の夜に執筆を始めたものです。本文が読者の皆さんの目に触れる2020年7月上旬には、本文の必要性が多少なりとも薄れていることを切に期待しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐる混乱、いわゆるコロナ禍は、表1に示したように大地震、津波、原発事故、台風、豪雨といった従前の災害にはないかなり特殊なストレスを人々にもたらしていると言えます。ご存知のように「コロナ疲れ」、「コロナうつ」などという言葉も生み出しています。
そのような中、私たちはどのような点に気を付けて日々の生活を送ったらよいのでしょうか。

以下、国際双極性障害学会:時間生物学・時間療法タスクフォース(International Society for Bipolar Disorders; ISBD)ならびに光療法・生物リズム学会 (the Society for Light Treatment and Biologic Rhythms; SLTBR)が提言している「新型コロナウイルス感染症(COVID -19)の世界的大流行下における、こころの健康維持のコツ:先の見えない中であっても、日常の生活リズムには気をつけよう」を2回に分けて紹介することにします。

新型コロナウイルス感染症(COVID -19)の世界的大流行(パンデミック)は、世界中で深刻な健康上の脅威を引き起こしています。そして、その対策として各国政府は、自宅待機や自主隔離、社会的距離の確保など様々な施策を打ち出しています。それらの対策は、医学的には感染拡大を抑えるために不可欠ですが、こうした慣れない生活スタイルが新たにはじまることは、こころの健康を保つために必要な日常生活上のバランスを大きく崩してしまう
危険性があります。

こころ穏やかに過ごすために役立っている、最も重要な脳のメカニズムのひとつが、“体内時計”と呼ばれるものです。この体内時計の存在のおかげで、24時間周期の朝・夜の繰り返しに合わせて、私たちの体調や行動は連動できています。更に、計画的で安定したスケジュールや一定の日常生活リズムは、その体内時計の働きをスムーズにすることでも知られています。

体内時計がスムーズに働くと、私たちは心地よさを感じられるようにできています。反対に、体内時計が乱れると、うつ病や糖尿病、肥満や癌など多岐にわたる心身の状態が悪化することも研究で示されています。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行のような生活を激変させる出来事に直面すると、私たちの体内時計は乱れやすくなるだけでなく、一度乱れたその体内時計を適切なリズムに戻すことも難しくなることがわかっています。特に、仕事や子育て、人との関わりといった、一定のリズムで毎日決まって行ってきた社会的活動(日課)が失われると、体内時計が変調をきたし、正しく作動しなくなってしまいます。結果として、不眠や食欲低下、元気がなくなったり、つらい気分に陥ったりといった、時差ぼけに似たような不快な心身の症状が生じてきます。

特に、うつ病や双極性障害のようなこころの病気を患っている方は、体内時計が健康な方よりも乱れやすいことが研究によってわかっています。実際に、これまでの生活スタイルが変化せざるを得ない状況に陥ると、体内時計が正確な時を刻めなくなり、その体内時計の乱れがうつ状態(もしくは躁状態)の出現などの気分悪化につながりやすくなるのです。反対に、毎日を規則正しく過ごすように気をつけることは、ストレス下であっても体内時計を正確に働かせ、気分を安定させるためにとても役立ちます。

たとえ新型コロナウイルス感染症の世界的大流行のように、生活が混乱している最中であっても、体内時計が正確に働くように努めることで、つらい気分をやわらげることができます。次号では、どんなに非日常な出来事であふれていたとしても、医学的根拠に基づいた規則的な日常生活を送るために役立つ、誰でもすぐはじめられる簡単なポイントを、いくつかご紹介します。

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