病(やまい)と 詩(うた)【58】①—「 事実」と「情報」—(ケセラセラvol.104)
東京大学名誉教授 大井玄
ドナルド・トランプ氏は、際限なく繰り返す嘘とその反科学的判断とによって、この欄にもたびたび話題を提供してくれた。
昨年11月の大統領選挙では、民主党のバイデン氏が史上最高の8100万という得票数で勝利したが、トランプ氏も史上2番目に多い7400万票を獲得している。彼を支持するアメリカ人にはどの様な特色があるのか。
2016年彼が大統領に選ばれたときには、低学歴、低所得の白人層が主たる支持者といわれたが、そうではないという。大学以上の学歴保持者でも白人男性は過半数がトランプ氏に投票しており、所得では年間10万ドル以上の層でトランプ票が多い。
副大統領だったマイク・ペンス氏は、キリスト教でも国内でもっとも多数を占め、バイブルの字句すべてが正しいと信ずる福音派教会に属しており、保守的キリスト教徒に支持者が多い。トランプ氏はパレスチナ人の意向を無視し、エルサレムに大使館を移すなどあからさまにイスラエルを支持しているので、アメリカでも保守的ユダヤ人層から財政的にもメディア的にも支持を受けている。
2020年の大統領選挙では極右が唱えるQアノンも一役買っている。これは、世界的に児童売春、小児性愛、人肉嗜好、悪魔崇拝を行う秘密結社の悪漢たちと戦う英雄としてドナルド・トランプが送り込まれたのだ、とする荒唐無稽の話である。しかし2021年1月6日に、トランプ氏にそそのかされて国会議事堂に乱入した暴徒たちには、Qアノンを信奉するトランプ支持者が多数混じっていた。それどころではない、ジョージア州選出の共和党下院議員マジョーリー・テイラー・グリーン氏は、公然とこれを支持するばかりか、2018年のカリフォルニアでキャンプ・ファイアから起こったとされる森林火災は、著名なユダヤ人銀行家が空中からレーザー光線をもって起こしたと主張したり、クリントン家がジョン・F・ケネディ・ジュニアの死に絡んでいるという噂を立てたりしている。
米国では2044年には、非ヒスパニック系の白人人口は総人口の半数を切ると予測されている。第二次大戦後アメリカ経済が圧倒的に強く好調だった時期、低学歴であっても白人労働者はゆったりとした生活を楽しむことができた。しかし世界経済が自由化し、資本主義の原理に従って、労賃の安い開発途上国に製造工場が移転するにつれ、ブルーカラー白人の経済的余裕も縮小していった。
「アメリカ・ファースト」と「アメリカをもう一度偉大に」と唱えるドナルド・トランプ氏が、ヒスパニック系やイスラム系の移民を制限しようとした基底には彼の人種差別意識もある。彼は何人もの黒人が殺害される事件を起こした極右団体を非難することなく、攻撃者側にも素晴らしい人たちがいると、殺人団体の弁護に聞こえる話をしている。なぜそのようにいうのか。それは右翼、特に極右の人たちに彼の支持層が多いからである。彼は自分の再選のためなら何でもやってきた。