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不安のない生活(18)東京マインドフルネスセンターの開設

医療法人 和楽会 理事長 貝谷久宣

前々回のこの欄でマインドフルネスについて紹介いたしました。しかし、日本では患者さんを対象としたマインドフルネス・セミナーはいまだ実施されていません。医療法人和楽会では本邦で先駆けてマインドフルネスセンターを開設して、セミナーを定期的に開催することにしました。その経緯について簡単にお話したいと思います。昨年11 月に「マインドフルネスストレス低減法」の創始者のカバットジン博士が来日し、セミナーやワークショップが開かれたことは前々号で述べました。その後、石井心理士が「味わう生き方」(テック・ナット・ハン&リリアン・チェン著、大賀英史訳、木楽舎、2011)をテキストとしてマインドフルネス・セミナーを横浜クリニックで開催しました。このセミナーに興味を持つ患者さんがたくさんおられたことから、4月14日に鎌倉山クリニックで1日のリトリートを開催しました。その内容は、朝10時からまずマインドフルネスに関する簡単な講義の後、香道御家流理事長熊坂久美子先生の指導で「安珍と清姫」から題材をとったお香が儀容をもってしかし楽しく行われました。お昼は鎌倉の仕出し屋からとった弁当を「味わう生き方」にそって噛み締めました。午後は、お茶の時間をはさみヨーガと坐瞑想が行われました。終了後のミーティングでは15人の参加者からの意見は大変好評で満足がいくものだったようです。マインドフルネス・マインドの進み具合をリトリート開始前後で調査させていただきました。その結果、日常生活の行動における「感覚への観察」、辛い考えや強い感情に動揺せずに、それらをほっておくことができる「非反応性」、“好き嫌い”、“よいわるい”といった価値判断をしない「判断しない受容」といった項目の指数が増加していました。それに伴い、肯定的気分や不安気分も統計的有意に低下しました。 

このような結果からクリニックのスタッフは大変勇気づけられ、マインドフルネス・セミナーを定期的に開催することを決めたのです。赤坂クリニックの横のビルに格好のスタジオが見つかり、6月15日、13名の参加者を得て第1回のセミナーが催されました。はじめは月に2回ほどの間隔で、そして様子を見ながら回数を増やしていく予定です。また、8月には蓼科三井の森のセミナーハウスで3泊4日の合宿リトリートも計画しています。今年から、新しくACTを大学院で修めた臨床心理士がスタッフに加わりましたし、クリニックでカウンセリングをしていただいている早稲田大学人間科学学術院熊野宏昭教授や鈴木伸一教授に学術的支援を受けながらこの分野の治療プログラムを充実していく予定です。
さて、前々回のこの欄で、“カバットジン博士はマインドフルネス=禅だとはっきり断言していました”と書きましたが、実は正確に言うと少し違います。確かに、マインドフルネスと禅はその基本的な考えと方法論は同じですが、目的論は異なります。マインドフルネスは医学的・心理学的効果を狙っていることをカバットジン博士ははっきり表明しています。一方、道元禅師は“坐禅は手段にはあらず”といっているのです。坐禅をすることにより何かが得られると思ってやるものではない、すなわち、“無所得無所悟”つまり“得るところなし、悟るところなし”で行ずるものであると。只管打坐すること自体すでに心の平安が生まれているという考えである。フーゴー・ラサール(日本名:愛宮真備)というドイツ生まれのカトリックの司祭が50歳の時、日本に帰化しました。彼は上智大学教授などを歴任し、布教や教会活動に献身しました。その間、参禅にいそしみ、ついには「身心脱落」を体験した人であります。約50年前、ラサールはまさに今日の日本の状況を予言していました。「Zen,WegzurErleuchtung」(禅 悟りへの道、理想社、1967)という本の中で、“治療法としての坐禅は、おそらく欧米の医学を遠回りした上で、日本の医学にその座を占めることになるであろう”と。

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