あなたもすぐに実践できるストレスを減らす方法ーその1ー(ケセラセラvol.106)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 坂元薫
自分はストレスとは無縁な生活を送っているという人は、おそらく極めて少数派だと思います。ましてこのコロナ禍の時代、ストレスは増すばかりだという人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、『心の危機と民族文化療法』(中公新書1992)で布施豊正先生が提唱している「ストレスを減らす方法」を参照したうえで、私が日ごろ考え、そして実践しているストレスケアの方法を2回に分けてご紹介して、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
■「完全主義をやめる」
完全主義は決して悪くはありません。しかし、いつでも完全主義を貫こうとしていると、いつか疲弊しきってしまうときが来るのではないでしょうか。いま、自分が抱えている仕事や案件や家事は、本当にすべてを完璧にやる必要があるのでしょうか。多少余力を残す程度に済ませられることがあるのではないか、と検討されてみてはどうでしょうか。もちろん本当に完璧を目指して全力をあげてやるべきこともあるはずです。しかしそこまでしなくてもよいのではないかと思えるものもきっとあるのではないでしょうか。そうしたことに対しては、この際、上手に手を抜いてみることも覚えてはいかがでしょうか。そうすることによって生まれてくる自由な時間とこころのゆとりを大切にしたいものですね。(ちなみに今回、この文章を書くにあたって、私は完全主義をいかんなく発揮しています(笑))
■「自分の能力の限界を知って、高望み、背伸びしない」
ときには、自分の限界に挑戦して背伸びすることも大事ですが、いつもいつもそうしているとじきに疲れ切ってしまいます。だからといって決して、諦めろということではありません。自分の能力を過小評価してはいけません。伸ばせるところは伸ばしていくことはもちろん大事です。能力の限界内で最大限の努力をすることを怠ってはいけませんが、自分の能力の限界を正しく知り、受け入れ、その範囲内でゆとりをもって人生を楽しむことも実はとても重要なことだと思います。
■「笑う習慣、ユーモアを養っておく」
「笑う角に福来たる」とはよく言ったものです。笑うことがストレス解消につながるだけでなく免疫力も高めることが知られています。医療場面での貢献を目指して「笑い療法士」という資格を持った人たちもいるぐらいです。たとえ深刻な事態であっても、最低限のユーモアは失わない努力をしたいですね。
また「笑いヨガ」が心身によい影響を与えることも知られています。ところでヨガについては何となく知っていても、「ラフターヨガ(笑いヨガ)」とは聞きなれないのではないでしょうか。笑いとヨガの呼吸法を組み合わせた笑い体操なのです。ヨガと言っても難しいポーズをとる必要はありません。「ただ笑うだけ」の体操なのですが、おかしくもないのにただ笑うなんて出来ないとか、そんな無理して笑って何の意味があるのかと思われる方も少なくないでしょう。しかし、笑うことで多くの新しい酸素を自然に体に取り入れ、心身共にすっきりして元気になることができるとされているのです。
脳は作り笑いと本物の笑いを区別できないことに注目したインドの内科医によって提唱されたと言われています。つまり作り笑いでも脳に対しては、本物の笑いと同等の効果があるというのです。冗談、ユーモア、コメディー、落語などによる自然な笑いももちろんよいのですが、ともかく笑うというところが心身によいのです。
また笑うだけでなく、泣くことも実はこころの健康によいのではないでしょうか。とりわけ、感動して泣くことはメンタルヘルス維持の特効薬ではないかとさえ思います。女性はさまざまな場面でよく泣きますが、小さいころから「人前では泣くものではない」と思い込まされてきた男性陣はなかなか泣くことができません。ひょっとしたら、平均寿命が男女で明らかに違うことのいくつかある理由のひとつは、この「泣くこと」にあるのかもしれないというのは少し言い過ぎでしょうか。
■「人間関係では現状をある程度容認し、あるがままの姿で受け入れる習慣と心の姿勢を持つ」
うつ病になってしまった人で、職場の人間関係につまずいたのがきっかけだと云うひとに出会うことが少なくありません。普段から人間関係を良好に保つ努力をすることはもちろん重要ですが、頑固な上司、気難しい同僚、効率の悪い部下などといった人々の言動や習性を何とかよい方向に変えようと思ったり、コントロールしようと思っても、そうしたことはなかなかできないという事実を認識して受け入れておくことも大切です。自分だってなかなか変えられないのに、ましてそういう他人を変えるのは容易ではありません。
たとえ頑固な上司、気難しい同僚、効率の悪い部下であっても、時にはあるがままの姿で受け入れる心の姿勢も大事なのです。
■「人間関係、人生上のできごとすべてに対してなるべく楽観的にとらえること」
楽観しても悲観しても、起こってしまった出来事そのものは変わりません。そうであれば、普段から少しでも楽観的に物事をとらえる訓練をしておきたいものです。
人間関係や出来事をことさら悲観的にとらえると、さらに憂うつな気分に拍車がかかり、何とか打開可能な局面があるにもかかわらず物事を諦めやすくなってしまい、さらに良くないできごとを引き起こすことにもなってしまうものです。
こころの重荷になるような出来事が起きてしまってから慌ててそうした訓練をしようと思っても遅いので、普段から少しずつでよいので楽観的なものの見方、とらえ方を身につけるトレーニングを始めてみませんか。
次回は、さらなる「ストレスを減らす方法」についてご紹介していきたいと思います。