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マインドフルネスの臨床効果と脳科学⑭ 直観とマインドフルネス(ケセラセラvol.108)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

前回の坐禅の要術で、現代流にいえば、宮川敬之氏によるレンマ的思考-第六感的思考、ピーンと来たと形容される直観的思考-が話題となりました。今回はこの直観的思考について熟考し、さらに、マインドフルネスとの関係について述べます。(前号では直感と書いている箇所がありましたが、直観と訂正します。)

オックスフォード英語辞典によると、直観とは、“意識的な推論なしに、何かを瞬時に理解したり、知ったりする能力”とあります。この直観はいろいろな名前で呼ばれています:「突然のひらめき」、「ヘウレーカ」、「天才的思いつき」、「Aha 体験」、「天啓」等々。「ヘウレーカ」については、有名な故事が残っています。ギリシアの王様が純金の王冠を作らせたところ、金細工師が王冠に混ぜ物を入れて金をだまし取ったという噂が流れました。その王はアルキメデスに王冠を壊さずに混ぜ物がしてあるかどうか確かめるように命じました。困り果てたアルキメデスは、ある日風呂に入ると、湯船の水があふれるのを見ました。その瞬間、アルキメデスの原理のヒントが頭にひらめき、アルキメデスは浴場から裸で飛び出し、「ヘウレーカ」と叫んで、喜び走ったということです(1)。

棋士の直観研究
最近、「直観」に関して理化学研究所で将棋の棋士の脳研究がなされました(2)。高段者に機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置の中に入ってもらい、直観的思考と熟考時の脳の働きが検討されました。その結果、長考時とは別に一目で状況判断、最善手を見つけ出す特異な思考の回路(直観)があることが分かりました。こうした優れた直観力に関係する部位は、大脳基底核に位置する尾状核と呼ばれるドーパミンの豊富な神経核であることも明らかにされました。先年、AIが女流王将に勝利したというニュースがありましたが、プロ棋士が瞬時に次手を思い浮かべる直観力に関しては、コンピュータはまだ人間に及ばないということです。コンピュータ将棋は天文学的な数のデータを使用し指し手を探索するわけですが、そのような論理的思考によるのではなく、プロ棋士の直観力は、いわゆるパターン認識によって実行されます。このプロ棋士の直観的な盤面認識については、fMRIで楔前部(頭頂葉内側面の後方に位置する脳回)の役割が重要であることが明らかにされました。

認知神経科学のAha研究
認知神経科学では、多くのAha研究がなされています。或るfMRI研究では、直観的判断に際して、普段はあまり連絡を取り交わさない、種々な概念が蓄えられている脳内の各所を連絡する部位、すなわち、両側下頭頂葉および右上側頭葉の連合野の活性が高まっていることが明らかになりました。このことから、直観的思考は、無意識のうちに種々な連想が瞬時に統合されて出現するのではないかと推定されています(3)。
Aha体験は、no-Aha体験に比べて、より大きな皮膚電気活動とわずかな心拍の加速を伴っていました(4)。これは、Aha体験では交感神経の反応が上昇していることを意味しています。類似した現象として、Aha体験に伴う“温かい感覚”というものが報告されています(5)。また、Aha体験に際してポジティブな感情、とりわけ幸福感がみられることも興味深いことです(6)。また、Aha体験によって得られた記憶は正確で(7)、長期間記憶にとどまる(8)という研究結果が提出されています。

直観的思考は全身から起こる?
このようにAha体験の研究は身体的な感覚と深い関係があることを示しています。英語では第六感は“gut feeling”といいます。日本では、古くから腹の虫が知らせるという言葉を使うこともあります。内臓感覚とでもいうのでしょうか。身体が教えてくれるというわけです。
“gut”は正確には“腸”です。腸には100兆個ともいわれる腸内細菌が腸内フローラを形成しています。そこには全身の免疫細胞の約70%が集まっており、「腸管免疫」と呼ばれています。
免疫システムの一つである「自然免疫」は、常に体内を監視し、体内への侵入者を識別し、有害と認めるといち早く攻撃します。この認知システムが、直観という精神機能に結び付いているとする見解が提出されています(9)。それは次のような事実があるからです。脳と免疫系が情報伝達物質(サイトカイン、ホルモン、神経・内分泌ペプチド、古典的神経伝達物質)と受容体を共通に持っており、お互いに影響しあっているからです(10)。

直観とマインドフルネス
最後に直観とマインドフルネスの関係について述べましょう。瞑想は一口に言えば、nonthinkingの状態ですから、この状態で直観的思考とか独創的思考が出てくるはずはありません。しかし、瞑想中に生じるマインドワンダリングの状態ではしばしば名案が出現します(11)。ですから、本誌Vol.99で述べましたようにマインドフルネス瞑想は脳内の結合性を高めることから、マインドフルネス訓練を長期受けた人には、直観的思考や独創的思考が生じやすいことは、改めて言うまでもありません。さらにまた、マインドフルネスでは免疫機能が活性化されることも明らかにされています(12)。

関連文献
(1) ウィキペディア
(2) 独立行政法人 理化学研究所
https://www.riken.jp/press/2011/20110121/index.html
(3) Ilg R et al., Neuroimage. 2007; 38: 228.
(4) Shen w et al., Appl. Psychophysiol. Biofeedback. 2018; 43: 13.
(5) Kizilirmak JM et al., Front Psychol. 2018; 9: 1404.
(6) Shen W et al., Br J Psychol. 2016;107: 281.
(7) Danek AH et al., Psychol Res. 2013; 77: 659.
(8) Kizilirmak JM et al., Psychol Res. 2016; 80: 1059.
(9) Celada F. Autoimmunity. 2011; 44: 253
(10) 堀 哲郎 日本薬理学雑誌 2000;115: 209
(11) Zedelius CM & Schooler JW. Front Psychol. 2015; 6: 834.
(12) Black DS, Slavich GM.Ann N Y Acad Sci. 2016

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