睡眠を制する者は人生を制するーよりよき眠りのためにーその3(ケセラセラvol.111)
医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 坂元薫
この原稿を執筆している2022年11月中旬は、2023年にかけての年末年始頃には第8波が襲来するだろうという大方の予想を超えてすでに第8波が始まり拡大する様相を呈しています。ふたたび日本のコロナ感染者が世界最高を記録するようになってしまいました。行動制限もなく、全国旅行支援策や海外からの入国制限撤廃などもそうした要因となっているでしょう。
新型コロナ感染症はおおむね5年間は持続するのではないかとも予想されていますので、あと2年間は波ごとに感染者が増加するような波に周期的に襲われることを覚悟しなければいけないのかもしれません。次々と現れる変異ウイルスによって重症化率が高まらないことを祈るばかりです。
前回に引き続き、今回もコロナ禍に負けずによりよい睡眠をとるための方策について皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。前回は1から11までご紹介しました。前回も掲げた設問(表1)への回答を考えながら続きをお読みいただけたらと思います。
12、起床時間をなるべく一定にする
就寝時刻にこだわりすぎず、眠くなってから床に就くこととならんで重要なことは朝起きる時間をなるべく一定にすることです。眠りが浅いときは、むしろ遅寝・早起きにすることを考えてもよいのかもしれません。古来から早起きは三文の徳と言われているとおりだと思いますが、すべてのひとが朝型人間になる必要があるわけではありません。
朝型と夜型は遺伝子的に規定されている部分もあるので無理に夜型から朝型に変えることでかえって心身の不調をきたすこともあるのです。
起床時間が一定になっているか、あるいはそもそも自分の睡眠リズムがどのようなパターンなのかを知るために睡眠リズム表をつける習慣をつけることもお薦めしたいと思います。睡眠リズムを適切に保つことはうつ病や双極性障害の治療や予防法としても重要な手段となるのです。(図1)
13、起床後に光を浴びる
起床後に日の光にあたるようにしましょう。そのことで体内時計がリセットされて、睡眠覚醒リズムが前進して、よりよい眠りにつながるのです。
天気の良い時など朝早く起きて朝日を浴びての早朝ウオーキングや早朝ジョギングは適切な運動も兼ねることになり理想的な不眠解消法とも言えます。ただ朝から家を出て運動などどうしても気が進まないという方も少なくないでしょう。
そうした場合は、家のなかで朝日を浴びやすい環境におられる方はよいのですが、日当たりがあまりよくない部屋にお住いの方もおられることでしょう。そんなときにお勧めしたいのは、高照度光療法器を使うことです。高照度光を発する装置で「ブライトライト」というような製品名でネットなどで検索されるといくつか類似した装置が出て来ることと思います。値段も30000円~40000円ほどするものまでありますが、そのような高級品ではなく目から30 センチのところで10000ルクスの照度が得られるものであれば5000円~6000円のもので十分だと思います。
こうした装置を購入して、午前中の早めの時間に1時間程度高照度光が目に入るようにして浴びるのです。(図2)この高照度光療法は、毎年日照時間が短くなる秋冬にうつ病を繰り返し春になると自然に軽快し、夏になるとどちらかというとやや軽躁的になるという季節性うつ病にも有効性が高いことが実証されています。
14、昼寝は効果的だが、30分以内に
午前中の仕事を終えてランチをとったあとなどしばしば眠くなるものです。そんなとき無理に仕事を続けても能率も上がりません。思い切って昼寝することでその後の仕事の能率が上がることもあります。しかし長すぎる昼寝は睡眠リズムを混乱させ夜間の不眠を助長します。どうしても昼寝したいときは15時までに30分以内とすることが推奨されています。
15、睡眠時間にこだわりすぎないこと
このことも大事です。万人に共通する必要睡眠時間というものはありません。個人個人で最適な睡眠時間は異なります。また図3に示されているように年齢とともに睡眠時間は短くなることも知られています。睡眠時間は短すぎても、長すぎても生命予後を不良にすることが知られています。長時間寝れば寝るほどよいというものでもないのです。
また休日に長時間寝る寝だめをして多忙な平日の睡眠不足を補おうとしがちです。しかし、睡眠は蓄えておくことはできません。せいぜい平日の睡眠負債を返済しようとしているだけなのです。さらには休日に長時間寝てしまうこと、特に昼寝を長時間することなどでそれまでの睡眠覚醒リズムが崩れてしまうことに注意しなくてはなりません。一過性にせよ昼夜逆転のようになってしまい、週明けに備えた睡眠がとれず月曜日の朝の不調を来す原因にもなってしまうことが懸念されます。毎週休み明けの不調になるひとが少なくないのですが、その原因は休日の不適切な「寝だめ」や長時間の昼寝にあるのかもしれません。
次回はさらによりよい睡眠をとるための方策についてのヒントをお伝えしていきたいと思います。