不安症の脳内活動 恐怖ネットワーク(ケセラセラ2023年9月号 vol.115)
医療法人和楽会 横浜クリニック
院長 境洋二郎
パニック症をはじめとする不安症の病状や治療において、「気持ちの問題だ、弱いんだ、気合で治すんだ」などという方もいますが、脳内の神経活動の変化という視点で見てみましょう。
恐怖条件付けを用いた不安症に関するモデル動物実験などの、多数の神経学的研究の蓄積によって示された「パニック症の神経解剖学的仮説」(Gorman et al., 2000)(図1) について説明します。
大脳辺縁系にある扁桃体を中心とした恐怖ネットワークが病態の中心と提唱されており、扁桃体の活動が亢進すると不安・恐怖が高まります。
扁桃体から視床下部や、青斑核・中脳水道周囲灰白質・傍小脳脚核などの脳幹の神経核への投射により神経活動の高まりが伝わり、不安や恐怖と共に、動悸や発汗などの自律神経症状、覚醒亢進症状、体が硬直する防御反応、呼吸数の増加などのパニック発作の精神症状、身体症状が生じると考えられています。
扁桃体に刺激を伝える入力系では、内臓感覚や視覚・聴覚などの感覚刺激が、孤束核や感覚視床を介して直接的、または島皮質や前頭前野・帯状回などを通って間接的に扁桃体に伝わります。
また、認知や情動反応や記憶に関連した刺激も前頭前野や海馬から扁桃体を刺激し、恐怖ネットワークを活発にすると考えられています。
刺激の入力において、自覚できない例えば血中の二酸化炭素濃度の微妙な変化などの刺激で、扁桃体や視床下部・脳幹の神経核が興奮して、予期しない突然のパニック発作が生じると考えられます。
自覚できる乗り物や閉じ込められた場所など条件付けられた場面での視覚・聴覚などの感覚情報や、過去の記憶と結び付けたり、前頭葉を使って思考したりする際の神経活動が扁桃体などに伝わり、パニック発作の精神・身体症状が生じる場合には、状況依存性の発作や、予期不安症状が急激に高まり発作のような状態になっていると考えられます。
予期しないパニック発作を繰り返している状態や、条件付けされた場面でのパニック発作や強い社交不安で生活が狭められている状態で、自分を過剰に責めてしまったり、周りの環境を責めたりして、改善に繋がらない状態で苦しんでいる方の中には、「脳内の扁桃体を中心とした恐怖ネットワークが高まっている状態」と捉え、過剰に自分も周りも責めないようにした方が、状態把握やその後の有効な治療に結び付き、冷静に治療に取り組めることがあります。