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子どもの不安症を見逃さない!⑦(ケセラセラ2025年3月号 vol.133)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
7.パニック症の事例
子どものパニック症の特徴
子どものパニック症は大人のように不意に突然4つ以上の身体症状が激しく出ることはほとんどありません。最も多い症状は吐気です。吐き気や体の不調は発作的に出ているのですが、1つだけの症状で発作とは受け取られません。子どもは自分から“不安”を伝えることが出来ず、泣いたり、不機嫌になったり、拒否的な態度または体調不良を訴えるだけです。
事例紹介:F君のケース
F君(小学校6年生)は、夏休みの終わり頃に喉の詰まりを訴え、耳鼻咽喉科を受診しましたが、異常は見つかりませんでした。彼はサッカーチームに所属しており、夏の試合中に熱中症で途中退場した経験がありました。その出来事に対する無念な思いや仲間に対して心苦しく思う気持ちが、体調不良として現れているのでは、とお母さんは考えました。しかし、数日もしないうちに激しい吐き気が頻発するようになりました。やはり病気があると考え、今度は消化器内科を受診し、半夏厚朴湯とアコファイドを処方されましたが、良くなりません。実は、F君は2年前(小学校4年生)にも似たような症状を経験し、機能性ディスペプシアの診断を受けていました。こんな時に、丁度、子どもの不安症の記事をネットで調べて、筆者のもとをF君は訪れました。
診察で明らかになったこと
F君は、外出恐怖のため、クリニックへ来るにもかなりの努力を要したということです。二学期が始まる前日、食後に突然気持ち悪くなり、吐きはしないけれど、息苦しさ、冷や汗、胃のムカムカがあり、激しい不安に襲われ「死んじゃう」と叫んだそうです。このパニック発作は約30分続きました。翌朝、学校へ行こうとするも「また吐気が出たらどうしよう」と悩み、お休みしました。以降、夏休み前までは元気に通っていた学校や塾に一切行けなくなり、全ての活動が停止したような状態になりました。また、軽い発作は続き、入浴時に毎回親を呼んだり、ちょっとの買い物も待てなくなり、まるで赤ちゃん返りをしたようにお母さんが自分から離れることを嫌うようになりました。
治療と経過
診察時に明らかなパニック発作があることが確認され、パニック症の診断のもとに、以下の治療を開始しました。
治療のポイント
1. 親のカウンセリング
・心理カウンセラーがパニック症のメカニズムや対処法を説明。
・外出恐怖への対応も勉強。
2. 薬物療法
・フルボキサミン(セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI))を少量から開始。
・吐き気を軽減し、予期不安にも効果のあるスルピリドを少量から併用。
・初期のみ抗不安薬ロラゼパムを大人の1/4量で処方。
回復の経過
・2週後:半日だけ登校が可能に。しかし、吐気を恐れた給食への恐怖感は残る。
・5週後:お母さんの付き添いなしで一日中学校にいられる日が出てくる。
・7週後:毎日楽しく登校できるようになり、運動会で一等賞を獲得。
・11週後:インフルエンザで服薬を中断し、一時的に予期不安が再発。
・13週後:学校や塾に積極的に通い、中学受験の勉強に集中できるように。
病状経過の解説
経過を見ると、実はF君の発病は来院2年前(4年生)であったと推定されます。そして、病気が成熟してきて最終的に大人のパニック症と変わらない状態となりました。F君の主要薬フルボキサミンは小児にも適応が認められ、広く使用されているお薬です。少量からであれば副作用を出す児はほとんどいません。不安症の服薬治療は効果が早く確実に出ますので、積極的に取り入れるべき治療法です。また、不安症の親に対する認知行動療法はアメリカではルーチンに行われており、筆者のクリニックでも公認心理師が積極的に実施しています。