
子どもの不安症を見逃さない!⑧(ケセラセラ2025年6月号 vol.136)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
8. 隠れて自傷する中学生 ― 見逃されていた「不安抑うつ発作」
「どうしよう、どうしよう……」
ある朝、Gさん(中学1年生)は登校前に突然泣き叫び、体が動かなくなりました。不安に飲み込まれ、何も手につかなくなったのです。母親は驚き、慌ててクリニックを訪れました。
Gさんは幼い頃から神経質で、小学4年生の頃にはストレスから髪を抜く癖(抜毛症)がありました。高学年では、ちょっとした友人トラブルから仲間外れになり、それが心の傷として残っていました。中学に入っても人間関係のつまずきが続き、周囲の反応に敏感に傷つきながらも、なんとか自分を奮い立たせていました。
しかし、心の奥では限界が近づいていました。塾で男子にからかわれた日々、自分を責める思考。人前では明るくふるまっても、家では突然涙を流すこともありました。
そんな中、Gさんの心を襲ったのが「不安抑うつ発作」でした。
この発作は、ある日突然、激しい不安とともに始まります。何ともいえない不吉な感情に包まれ、過去のつらい記憶が次々とよみがえります。無念な思い、理不尽な経験、将来への強い不安。これらが次から次へと頭の中を駆けめぐり、心を押しつぶしていくのです。涙があふれても、自分では気づかないことすらあります。発作は数分で終わることもあれば、何時間も続くこともあります。
このどうしようもない苦しさから逃れようと、多くの子どもたちは自分の体を傷つけたり、甘いものを過食したり、無謀な行動に走ったりすることがあります。Gさんも例外ではありませんでした。ある日、母親がふと目にしたのは、Gさんの太ももに刻まれた無数の自傷跡でした。人に気づかれないよう、服で隠れる場所を選んでいたのです。
診察の結果、Gさんには軽度の自閉スペクトラム傾向があり、人との距離感や感情の整理が苦手な面があることがわかりました。治療は、母親への関わり方の指導と、少量の薬から始まりました。さらに、不安抑うつ発作に対する特効薬を追加し、心の痛みを受け止めるカウンセリングが重ねられました。
そして半年後、Gさんは笑顔で登校できるようになり、中学2年生に進級しました。
不安抑うつ発作は、子どもの不登校や自傷行為の背後に隠れていることが多いです。しかし、多くのケースで見逃され、放置されてしまいます。放置すれば、抑うつが慢性化し、「ボーダーライン(境界性)」と呼ばれる状態にまで進むこともあります。
だからこそ――この病気に早く気づき、手を差し伸べることが、子どもたちの未来を守る鍵になるのです。
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