不安症児持たれたお母さんへの認知行動療法(ケセラセラ2025年12月号 vol.142)
医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣
不安症児持たれたお母さんへの認知行動療法
(SPACE:Supportive Parenting for Anxious Childhood Emotions)
赤坂クリニックでは不安症児を持つ親御さんのための認知行動療法を始めました。これは米国で行われているSPACEに順じて行われます。今回はこのSPACEについて解説します。
不安という気持ちは、本来、危険を察知して身を守るための大切な感情です。けれども、その不安が強くなりすぎると、「学校へ行けない」「親から離れられない」「吐き気が出て、みんなの前で吐いたら恥ずかしい」といった問題が起こり、日常生活に影響を与えてしまいます。不安症の子どもは、日常の経験や環境の中で「不安を避けるほど安心できる」と学習していくことで強まる傾向があります。
お子さんが不安を感じているとき、親御さんはつい「安心させたい」「代わりにやってあげたい」と思うものです。もちろんそれは愛情から出た自然な行動ですが、実はこの対応が長期的には「不安=避けたほうがいい」という学習を強めてしまうことがあります。こうした対応を「家族配慮(Family Accommodation)」と呼び、子どもの不安を維持させる一因になることがわかっています。
そこで注目されているのが、アメリカ・イェール大学のエリ・レボウィッツ博士が開発した「SPACEプログラム(Supportive Parenting for Anxious Childhood Emotions)」です。この方法では、お子さんではなく親御さんが主に治療に参加し、家庭でのかかわり方を変えることで子どもの不安や回避行動を減らしていきます。
SPACEの進め方は段階的です。まず、「不安の仕組み」と「家族配慮の影響」を理解します。次に、親御さん自身の考え方のくせに気づき、「不安=危険」ではなく「不安=成長のチャンス」と考え直していきます。そして、子どもの回避行動にどのように対応するかを計画し、少しずつ不安な場面にチャレンジできるよう支援します。最後に、実践と振り返りを重ねて定着を目指します。
SPACEで学ぶ主なポイントは、①過剰な助けや回避支援を少なくすること、②子どもが怖い状況に少しずつ近づけるよう励ますこと、③不安を「悪いもの」ではなく「学びの機会」と捉えること、④「怖かったね」と共感しながら一緒に解決策を考えること、⑤勇気を出した行動をほめて強化すること、の5つです。
SPACEの基本的な考え方は「親が変われば、子どもも変わる」というものです。親御さんが穏やかに、そして肯定的な態度で接することで、子どもは安心して少しずつ不安に向き合う経験を積むことができます。その結果、「不安は我慢できる」「怖くてもやってみる」という新しく学習がなされ、子ども自身の自信と自立が育ちます。
もし子どもが強く拒否したり、親御さん自身の不安が強い場合には、無理をせず、小さな一歩から始めることが大切です。必要に応じて支援者や専門家と一緒に取り組むことで、より安心して進めることができます。大事なのは、不安を完全になくそうとすることではなく、「不安との付き合い方」を変えていくことです。親御さんが穏やかに、勇気をもって寄り添う姿こそが、子どもにとって何よりも心強いメッセージになります。

