東京大学名誉教授　大井玄

～①のつづき～

国の最高指導者としてのトランプ氏は、感染予防としてのマスク着用、社会的距離（social distance）を置くなどの予防的措置をとることに一貫して冷淡であった。ホワイトハウスでの宴会で感染者の集団発生が起こり、自身が感染して数日入院加療を受けたにもかかわらず、この姿勢に変化はなかった。
大統領選挙のため激戦州で演説するトランプ氏の聴衆は、密集し、大歓声をあげ、マスクをする者が少ないのをテレビが世界に伝えていた。その聴衆には感染者のクラスターが頻繁に発生することも報じられている。

一方民主党の大統領候補ジョー・バイデン氏のコロナに対する態度は対照的だった。コロナウイルス感染と流行についての医学的事実を受け入れた。聴衆の密集を避ける工夫をし、自らもマスクを着け、投票も感染予防のために出来る限り郵送による方法を有権者に勧めた。
今回の投票率は歴史的に高いものであった。そして当然のことながら、郵送されてくる票は圧倒的にバイデン氏を支持する内容であった。

票の集計は各州でなされたが、監視団の報告では大掛かりな不正がなされた痕跡は皆無であった。
集計の始めにトランプ氏の得票が多いように見えても、郵送されてくる票がそのあとに数えられる場合には、バイデン氏に入れたものが多く逆転されることが多い。集計の最後の方でバイデン支持票が多数になると、トランプ氏は自分が勝っている選挙であるのに、バイデン側に「盗まれた」と、再集計を要求した。
最終に近い結果は、両氏とも史上最多の得票であったが、バイデン氏は51％、約7，932万票、で306人の選挙人を確保し、トランプ氏は47％、約7，313万票で、選挙人232人に止まった。バイデン氏は総得票数で600万票引き離している。

コロナ・パンデミックの勢いは強まりこそすれ衰えていない。
感染者数（カッコ内は死者、いずれも概数）は、5月下旬：180万（10万）、6月下旬：210万（12万）、7月下旬：410万（15万）、8月下旬：590万（18万）、9月下旬：710万（20万）、10月下旬：850万（22万）、そして11月3日の投票日には920万（23万）だった。11月16日現在、毎日10万人のペースで感染者は増加しており、ついに1，100万人を超えた。

ウイルスは、生物学的にごく自然な道筋で感染してゆく。その道筋が判れば、感染予防は可能である。それは、いわばウイルスの行動を理解し、そして、敬意を払うことであろう。バイデンはそれをした。トランプはしなかった。

文献
(1) Ｋ.Swisher “Trump’s reign of tweet terror is nearly over” The New York Times 2020-11-20