医療法人和楽会 赤坂クリニック
院長 坂元薫
今回は僭越ながら拙著の紹介をさせていただきたいと思います。
精神疾患のなかにはゆっくりと始まり徐々に進行し、次第に日々の生活に支障をきたしてくるものが少なくありません。そしてとても不思議なことなのですが、自分では治る、あるいは治せる病気だと思えないことがほとんどなのです。治る病気どころか、そもそも病気ではなくて自分の弱い性格のせいだ、自分はダメ人間なのだと自分をひたすら責め続けてしまうこともまれではありません。うつ病などはその代表的なものでしょう。
その点、パニック症の始まり方は明らかに異なります。人生に何度とないような「死の恐怖」に突如襲われて始まるのです。こんなドラスティックな始まり方をする精神疾患はほかにはありません。そんな恐怖のどん底で救急車を呼び、搬送される人も少なくありません。救急車を呼ばないにしても、慌てて医療機関を受診します。しかしそこで正しくパニック症との診断がつくことはむしろまれといっていいのかもしれません。
私が、パニック症の人々の診療に力を入れ始めた30年ほど前には、パニック症という正しい診断や治療にたどりつくまでに年の単位かかってしまう人もまれではありませんでした。その後啓発も進み、そういう状況はすっかり是正されているのではないかとずっと期待していたのですが、残念ながらそんな期待に裏切られているのが現状なのです。
パニック症の人が正しい診断と治療に出会うことがなくて時が経つと、ほかの不安症やうつ病、双極症などを併発することにもなって大変複雑な経過をたどってしまうことにもなります。本書はそのようなことがないようにとの切なる思いをこめて執筆したのです。
しかし、様々な精神疾患を併発してしまっているパニック症の人も少なくありません。そうした方々の治療は総力戦で臨まねばなりません。そうした疾患の治療に全力を挙げるだけでなく、そうした疾患の発症や増悪、再燃、再発にも大いに関与するストレスへの対応にも注力しなければならないのです。本書ではそんな点もふくめて多岐にわたる内容について皆さんに知っておいていただき、そして実践してほしいと願いながらも執筆しました。
私は精神科医になって40有余年が経ちますが、パニック症やうつ病、双極症といった精神疾患の診療で一番大事なことは、「希望を処方すること」だとずっと思い続けてきました。そんなことを言っても、ありとあらゆる病気の中でも最も希望を持てなくなる病気がパニック症、うつ病や双極症ではないかとも思うのです。そうした病に苦しむ方々がどのようにしたら少しでも希望の光を見ることができるか。あの手この手をいつもいつも考え続けています。そうやって考え続け、おひとりおひとりにかすかでもよいから希望の光を届け、いずれはかつての笑顔とそのひとらしい輝きを取り戻せるような手助けをすることが精神科医の至高の使命だと思っています。
本書がそんな「希望の処方箋」となって読者の皆さんの希望へとつながり、ひいては皆さんが本来の人生の創造が出来るようになる一助となるものであれば望外の喜びと考えています。手にとってお読みいただければ嬉しく思います。
